酒でもグルメでもなく、使うほど変わる道具を選んだ。
父の日の定番を検索すると、酒、うなぎ、財布、ポロシャツ。毎年同じ顔ぶれが並ぶ。悪くはないが、どれも「困ったから無難なものを」という空気がにじむ。実の父だからこそ、もう少し踏み込んだ選び方をしてもいい。
今回集めたのは、錫の器、真鍮の栓抜き、真鍮のボールペン。共通点は「使い込むと変わる素材」であること。錫は手に馴染み、真鍮は酸化して深い色を帯びる。渡した日から少しずつ、父の手の痕跡が刻まれていく。そういう道具を3つ選んだ。
01 能作 ビアカップ 錫100%
WHY THIS ONE / なぜこれを選んだか
缶ビールを注ぎ替えるだけで、泡が変わる。錫の鋳肌にはごく微細な凹凸があり、ビールを注いだときに無数の核ができる。そこからきめ細かい泡が立ち上がり、口に運ぶとクリーミーに感じる。理屈はシンプルだが、体験すると驚く。
富山県高岡市の能作は、400年続く高岡鋳物の技術を現代の生活道具に落とし込んでいるメーカー。このビアカップは錫100%で、鋳型から取り出したままの梨地の表面をそのまま活かしている。コーティングも塗装もない。素材そのもの。
錫は熱伝導率が高い。冷蔵庫で1〜2分冷やしてからビールを注げば、カップの表面が結露するほど冷える。最後の一口まで温くならない。夏の晩酌が、ひとつ道具を挟むだけで別の時間になる。
Mサイズ(270cc)で約6,500円。缶ビール1本をちょうど注ぎ切れる容量。Lサイズ(380cc、約8,000円)もあるが、毎日の一杯にはMが手に収まりやすい。
NOTE / 留意点
錫は柔らかい金属なので、落とすと凹むことがある。ただ日常で手から滑り落ちる重さではなく、テーブルに置いて使うぶんには心配はいらない。食洗機は非対応で、中性洗剤とスポンジで手洗いする。電子レンジも不可。金属なので当然だが、念のため。
REVIEWS / 実際の評判
父の日の贈り物として選ばれるケースが多く、もらった側が「缶のままでは飲めなくなった」と言うのがひとつの定番になっている。泡のきめ細かさへの驚きが繰り返し語られており、5年以上使い込んだ人の評価が落ちないのが特徴的。自宅用に買った人がもう1つ贈答用に買い足す流れも目立つ。
02 FUTAGAMI 栓抜き 三日月
WHY THIS ONE / なぜこれを選んだか
栓抜きを使う場面は減った。ペットボトルと缶の時代に、瓶の蓋を抜く道具を持っている人は少ない。だからこそ、ふとクラフトビールの瓶を開けたくなったとき、引き出しの奥からこれが出てくると嬉しくなる。
FUTAGAMIは、高岡市で1897年から続く鋳物メーカー二上が2009年に立ち上げた生活道具ブランド。デザイナー大治将典との協業で、真鍮を「建材」から「手に触れるもの」に転換した。三日月という名の通り、弧を描く形は手のひらに収まり、テーブルに置けばオブジェになる。幅6.5cm、重さ130g。
真鍮の鋳肌は無塗装。新品のときは鈍い金色だが、手の脂と空気に触れるうちにキャラメル色へと変わっていく。磨けば元の光沢に戻るし、放っておけば深くなる一方。どちらを選ぶかは持ち主次第。そういう自由がある道具。
約3,500円。この価格で高岡鋳物の手仕事が手に入る。父の日の「もうひとつの贈り物」として添えるにも、単体で渡すにも、ちょうどいい重さ。
NOTE / 留意点
栓抜きとしての出番は正直多くない。瓶ビールやクラフトソーダを日常的に飲まない家庭では使用頻度は低いが、キッチンカウンターに置いておくと不思議と様になる。道具としてよりオブジェとして眺める時間のほうが長いかもしれないが、それでいい道具というものはある。
REVIEWS / 実際の評判
贈り物として受け取った側の声が印象的な製品。「何に使うのかわからなかったが、置いてみたら飾りとして気に入った」という、想定とは少し違う角度の満足が語られている。真鍮の質感と重みへの評価が高く、実際に瓶を開けてみると見た目に反して使いやすいという発見も多い。
03 トラベラーズカンパニー ブラスボールペン
WHY THIS ONE / なぜこれを選んだか
父はたぶん、もうペンを持ち歩いていない。スマホでメモを取り、署名も電子化された日常で、わざわざポケットにペンを差す理由がない。けれど真鍮の軸を手に取ると、何か書きたくなる。そういう道具がある。
トラベラーズカンパニーのブラスボールペンは、真鍮無垢の本体にペン先を収納する構造。キャップを外してペン先をセットするまでの数秒が、ちょっとした儀式になる。長さ約10cm。胸ポケットに入る。日本の工場で、一本ずつ削り出されている。
最初は金色。半年も使えば、手が触れる場所だけ色が変わり始める。指紋の跡がそのまま模様になっていく。磨き上げた真鍮とも、アンティークの古錆とも違う、自分だけの中間色。
約2,200円。リフィルはオート社製で交換可能。ジェットストリームの替芯に換装する人もいて、書き味の好みに合わせて中身を変えられるのも長所。
NOTE / 留意点
標準リフィルの書き味はやや硬め。なめらかさを求めるなら、ジェットストリームなど市販の替芯への交換を前提にするといい。真鍮は重心が後ろに寄るので、長文を書き続けるには向かない。メモや署名など短い筆記に合う設計。
REVIEWS / 実際の評判
経年変化を楽しむ文房具として長く支持されており、半年後、1年後の色の変わり方を記録している人が目立つ。「道具としての性能」より「手元にある満足」を語る声が多い製品。ペンを使わなくなった時代に、あえて持ち歩く理由をくれる一本として選ばれている。
錫のカップ、真鍮の栓抜き、真鍮のペン。どれも消耗品ではなく、壊れなければずっと手元にある。使うたびに少しずつ表情を変えて、数年後には渡した日とまったく違う色になっている。そういうものを父の手に渡してみるのは、悪くない選び方だと思う。


コメント